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この方法自体はそれほど珍しくもなく、私も誰かから教えてもらったというものでもありません。単純に試さないと分からないからという発想で始めたものなのですが、これは実に合理的な方法だと思っています。とにかく手を変え、品を変え試してみるのです。患者さんのこうしたい、ああしたいと言う希望を可能な限り試してみて、出来ることは出来る、ダメなものはなぜダメなのかを体験して知っていただくと言う方法です。この治療用入れ歯をする際に、私に必要なことは、良い材料を知っていて患者さんに情報提供できることと、教科書的なことにとらわれず、患者さんが試してみたいと言われたら、積極的に試してあげることです。
入れ歯は、当たり前ですが面積が広ければ広いほど力が分散し、安定度も増します。しかしこれに頬、舌の動きが加わることにより、必ずしもそうではなくなります。また違和感などは、単純に大きさに比例すると言うものではなく、その舌感、カタつきによってもずいぶん左右されます。髪の毛一本口に入ったら違和感はありますが、食べ物である飴などが入っても違和感は感じないでしょう。つまり単純に違和感があると言う場合でも、逆に面積を広くし、カタつきを無くし、舌感を良くすることにより解決する場合もあります。やはりここでも患者さんの思いをきちんと把握していないと、薄くコンパクトにすることを望んでいるのか、舌の当たりを無くすることを望んでいるのか、同じ違和感と言う症状でも処置が大きく変わってきます。
ここまで読んでいただいた患者さんには見えてきたと思いますが、私は入れ歯専門の歯科医師と謳いながら、実は、自分ではその技術的なこと自体は、たいしたものではないと思っています。はっきり言うと魔法は使えません。一般に難症例といわれているモノは私にも難症例です。しかし唯一差をつけたところは、患者さんを良く診て、手間をかけることをいとわずに取り組む、これです。そして症状を見て今後起こり得ることを予測し、出来るだけ正確に患者さんに伝えていくそれだけなのです。
「先生は入れ歯ではないから分からないでしょう。」と言われる患者さんもいますが、体験しないことを想像できる、予測できること。これが学問をしてきたということではないのでしょうか? 「産婦人科」では男性の医師は名医になれないのでしょうか? 私は大学院で学んだことにより、遺伝子や蛋白などの目に見えないものの構造や動きをイメージできるようになりました。学問をすることは知識を深めることだけではありません。それを生かして新しいことを発想し生み出していくことに価値があるのです。そこには博士号などたいした価値はありません。何を学んで何を生み出していくか。これが重要なのです。私が学んだ学問の価値は、患者さんに難しいことを出来るだけ簡単に分かりやすく説明することです。目に見えないこと、解かりにくいことを出来るだけイメージしてもらえる工夫をすることが、私の得意とするところです。 |