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 ここで患者さんが疑問に思うのが、「なぜ先生は1回でその調整ができないのか?」ということです。
 やってみるとわかりますが、カスタムアップする時、徐々に残っている歯への負担が大きくなっていきます。相談する時に、「ここの歯への負担を少し増やしますね」と確認しながら、少しずつ負担をかけていきます。

 単純に歯に頼るだけの設計で作ってしまうと、今後は力をかけた歯が悪くなることを加速するだけです。どの歯が負担をかけても大丈夫なのか、そしてどのくらい力をかけても大丈夫なのかは、それこそ試してみないとわかりません。できるだけ負担をかけないで作ることが入れ歯は大切で、難しいところです。

 入れ歯は「落ちない、動かないぎりぎりのところ」で使いこなせるものが良いのです。つまり、外れるか外れないかくらいのその絶妙な限界点を探す必要があります。そのぎりぎりのところを探すのは、とても微妙な調整になるので、1回や2回ではできません。
 患者さんが私の入れ歯の調整ポイントを理解してくると、「落ちないもの、外れないものが良い」という本来の価値基準ではなくなり、「落ちそう、外れそうだけれどもなんとか使いこなせる」という微妙な位置を患者さんの方から指定できるようになります。もうその頃には、患者さんがうまく入れ歯を使いこなせる域に入っています。

 この調整に慣れてくると、以前に別のタイプの入れ歯を使っていた人は、「今までこんなきつい入れ歯を入れていたとは自分でも信じられない」あるいは「歯に締めつける感じがなくて楽ですね」とほとんどの患者さんがおっしゃいます。実はこの言葉が、あとの章に出てくる、「日本人に合った入れ歯」のできるきっかけとなりました。このお話は第3章の冒頭でまた述べたいと思います。
 では、なぜ入れ歯は「落ちない、動かないぎりぎりのところ」に調整して使いこなせるものが良いのでしょうか?それは単純な話、残っている歯に余分な力をかけないためです。残っている歯に余分な力などがかからない方が良いに決まっています。それでなくても、患者さんは歯周病や虫歯で歯を失って入れ歯になったわけです。残った歯に余分な力を負担させるというのは、それだけで、歯周病や虫歯を悪化させてしまう結構なリスクを負うことになります。
 ましてや特定の歯だけにその力を負担させるとどうでしょう。場合によっては、本来良い歯であっても余分な負担のため、次第にぐらついて抜けてしまうかもしれません。

 靴などもそうですが、お店で試し履きした時には、ぴったりフィットして快適そうに思えても、長時間履いていると疲れが出るとか、場合によっては履いて帰るその道中痛みが出始めることもあるでしょう。
 さらには走ったり、山に登ったりと、かなり過酷な条件のもとでテストしてみないと、その良さはわからないはずです。一見軽そうに見える靴が、耐久性がなかったり、雨の日に向かなかったり、入れ歯もそうですが、単純にその場だけで判断するものではありません。時間をかけてテストすればするほど、その問題点が浮き彫りになってきます。

 試す期間が長ければ長いほど、みなさんの生活に密着した良い入れ歯ができると思ってください。



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「入れ歯治療の新発想」


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