2018/09/01
不幸にも事故などで足を失った人の、義足を作る仕事をされている義歯装具士さんがいますが、おそらく義歯装具士さんたちは、自分の担当する患者さんができるだけ快適な社会生活を送れるように、審美的な面でも機能的な面でも支障なく使える義足を作ってあげたいと思っていると思います。
他の人に歩いている姿を見られても、義足をつけているとはわからないような義足を目指して作られているかと思います。
われわれ入れ歯専門の歯科技工士も、同じように、義歯だとわからない義歯を作っています。そして、できるだけ何でも食べられる義歯を目指しています。
義歯を作るときに、われわれ入れ歯専門の歯科技工士は、患者さんの口の中、あるいは型どりした口の模型を見るとき、歯のなくなったところを真っ先に見ます。つまり、歯ぐきや歯の抜けている状態をよく観察します。
歯科医師や差し歯専門の歯科技工士は、おそらくその逆で、まず歯を見ることからはじめると思います。
そして、義歯装具士さんはおそらく、なくなった足の部分を真っ先に見るんじゃないかなと予想します。それは、残っている足よりも、無い足の部分をどうするかが一番の問題だからです。われわれ入れ歯専門の歯科技工士も、歯のない部分を見ながら、どうやってうまくやるかに一番集中します。
もしかしたら、義歯があまり得意でない歯医者さんは、どうしても歯を中心に考えていて、義歯中心の考えができないためにうまく行かないケースが多いのではないかと私は予想しています。
まだ多くの歯が残っている場合には、歯を中心とした考えでもいいかもしれないですが、残っている歯が少なくてほとんど義歯の場合には、やはり義歯中心の考え方で取り組まないとなかなか成功しにくいかと思います。
義歯は、天然の歯のように、1本1本歯ぐきに植わっているのではなく、すべてがつながっています。1箇所に強くあたっただけで、他の部分も大きく動きます。全体のバランスがとても大切です。バランスボールに乗ってバランスをとるような気持ちでかみ合わせの調整をしていかないと、はずれたり痛みが出たりします。基本的には歯ぐきにのせているだけなので。
ただ、足は2本しかないので1本失うということは非常に悲惨なことですが、歯は大人で28~34本ありますから、足で考えるとムカデくらいの足の本数になりますので、1~2本失ってもまったく平気な人も結構います。
しかしながら、28本中のほとんどの歯をうしなった場合、これは大問題です。
ムカデも足が28本なかったら、多分歩けないでしょう。
そこを何とかして歩かせるのが、われわれ歯科技工士の仕事です。
なくなった部分をどうするかに一念発起しないといけません。
残っている部分よりも、残っていない部分が大きい場合、それなりに大変なのです。
足で例えるので、少しわかりづらくなりましたが、多くの歯がなくなった患者さんの口の中に、最適な義歯を入れるためには、相応の技術が必要です。
アゴの土手のしっかりした患者さんでしたら、作りやすいですし、土手がなく歯ぐきが弱そうな患者さんでしたら、難しいケースだと言えます。
次に残っている歯がどういう状態なのかを、歯科医師に確認します。
歯ぐきだけではしっかり安定させられない場合に、残っている歯に負担をかけて止めないといけないですから、止めるための歯が大丈夫なのかどうか、どれくらいの負担で行けそうかなど、考えながら義歯の設計を行います。
この時、患者さんの口の型だけではなく、直接、口の中を見て観察できたら、やはり良い義歯になりやすいです。生身の口の中は、石こうの模型とは違いますので、とても多くの情報を与えてくれます。また患者さんとお会いすることで、親近感がお互いにわきますし、作り手としてより責任を持って取り組まねばならない気持ちも強くなります。
患者さんの希望や注文も同時に聞くこともできますので、非常に作りやすい環境で、ありがたいと思っています。
2018/08/30
春にパラリンピックがありましたが、われわれ歯科技工士と似たような職種として、義歯装具士さんがいらっしゃいます。
義歯装具士さんは、医者の処方箋に基づいて、患者さんに合わせた義手や義足を製作する仕事です。われわれ歯科技工士も、歯科医師から出される技工指示書というものに基づいて、さまざまな義歯や詰め物、かぶせ物を作ります。
義歯装具士さんとの大きな違いは、義歯装具士さんは直接患者さんに触れながら義手や義歯を製作できますが、われわれ歯科技工士はそれが認められていません。歯科医師の管理、指示のもとであればできるのですが、それは現実的には歯科医院でしか直接見たり触れたりできないということになります。
当たり前のことじゃないかと思われるかもしれないですが、現在作られている義歯や詰め物、かぶせ物のほとんどは、歯科医院ではなく、歯科技工所(ラボ)という別の場所で作られています。つまり、間接的にしか作られていないということです。
義手や義足を間接的に別の場所で作ったとして、それが本当に患者さんにピッタリと合うものになると思われるでしょうか? パラリンピックの選手が使うような義足になれば、なおさら高度な調整が必要でしょうし、選手を直接見ながら合わせていくという熟練した作業が必要になると予想します。
本来ならば、義歯もそのように直接作り手である歯科技工士が患者さんと楽しく会話しながら共に作っていけたら一番いいんじゃないかと思いまして、当医院では院長のお力添えでそのようにしています。
しかしながら、それでも生身の口の中に完全に文句なく、自分の歯のような義歯を1回で作り上げるというのは、並大抵のことではありません。
保険診療の義歯などはおそらく数回の調整で終了というようなケースが多いと思いますが、そのような形で本当に絶妙な義歯になっているのか疑問であります。
もっと言いますと、義歯の場合、数回~十数回来院されて調整を繰り返すことで、何とも言えないいい感じの義歯になっていくのですが、保険診療での詰め物やかぶせ物の多くは、セットされた日に少し調整するだけで終わりというのがほとんどではないかと思います。
私もまだ十代の頃に通った歯科医院では、虫歯の治療は、削ってから型をとって、その次にセットしておしまいでした。何の疑問も持たなかったのですが、技工士になった今思うとかなり荒っぽいやり方じゃないかと思います。
たった1回の調整だけでセットされて、あとは何も確認しないままというのが問題です。義歯でしたら先ほど言いましたように、数回~数十回調整しないと良い状態にならないものです。詰め物やかぶせ物だからと言って、本当にたった1回だけでうまく行っているでしょうか。使ってみた後に、しばらくしてから確認するわけでもなく、何となくセットした時に大丈夫だったからということで、そのまま経過していると思います。
大きな支障がなければ、それでいいという考えですが、もしかしたら本当にいいかみ合わせにはなっていない可能性もあります。人には適応力があるので、若い年齢の人や歯がたくさんある人の場合には、他の歯の助けもあり、そんなに気にならないからということでそのままのケースも多いと思います。
ただ、セットした後も何度か確認して、本当にバランスよくかみ合わせの調整ができているのか、確認してもらったほうがいいかと思います。治療すればするほど、かみ合わせがズレていくなんてことがないように、丁寧な歯科医院で何度か確認を繰り返してもらうということをおすすめします。
2018/08/03
入れ歯が最近ちょっとゆるくなってきたとか、入れ歯が動きやすい、はずれやすいという経験は、多くの入れ歯患者さんが体験されているかと思います。
この原因を、多くの歯科医師や患者さんは、ハグキがやせてきたからとか、残っている歯が動いたからと考えることがあります。つまり、ハグキに入れ歯がピッタリ合っていないからだろうととらえられています。
もちろん、そういう場合もないことはないのですが、入れ歯を作ってしばらく経過しただけの患者さんの場合には、ハグキや歯に問題があるのではなく、入れ歯のかみ合わせが変化したことによる原因がほとんどです。
かみ合わせの調整は簡単ではなく、丁寧に何度も調整しないとピッタリこないので、なかなかそういう時間と手間をかけて、歯科医師の先生がやってくれるというのは難しいと思いますが、このかみ合わせを全体的にバランスよく調整しないと、またすぐに入れ歯がゆるくなったり、はずれたりすることになります。
しっかり奥歯まできれいにかんでいる入れ歯というのがおそらく少ないと思います。
入れ歯は前歯に当たると落ちる作りになっています。
長年使用されていて、絶妙にかする程度に当たっている入れ歯だと大丈夫ですが、まだ長期間使っていない入れ歯ですと、前歯にあたれば落ちやすく動きやすくなります。
そして一番後ろの奥歯までしっかりとかませるのは、なかなか大変です。
必ずしも患者さんは、左右の奥歯をバランスよくかんでいるとは限らず、むしろどちらかで強くかんでいることが多いので、反対側の弱くかんでいる奥歯までしっかりときれいにかませるには、何度も調整を繰り返さないといけなくなります。
当医院では、先生の指示により私が細かく調整することもありまして、奥歯までしっかりとバランスよくかむ入れ歯を提供しています。
奥歯までしっかりかむ入れ歯は、ハグキにもキュッと吸い付きますので、総入れ歯でも入れ歯をはずすのが大変なくらいの入れ歯になります。
皆さんも、奥歯までしっかりとかめているか、一度確認してみてください。
2018/07/31
院長が患者さんに入れ歯を説明する時に、一輪車という言葉をよく使います。
一輪車は、自転車よりもバランスがとりにくく、初めての人はそれなりに苦労しないと乗りこなせない乗り物ですが、根気よく練習をすれば、多くの人は乗りこなせるものです。
そういう意味で、はじめて入れ歯をされる患者さんや、いまいち入れ歯の扱い方がよくわからない患者さんには、わかりやすい言葉だと思います。
要は、入れ歯というのは、それなりにトレーニングしながら使いこなしていく道具だということになります。
しゃべり慣れるのにも、約2週間はかかりますし、食べ慣れるのにも同じくらいの期間がかかります。
われわれは、できるだけその患者さんにとって使いやすい入れ歯をオリジナルで作るのですが、患者さん自身のトレーニングと慣れはどうしても必要になります。
しばらく使われていると、変化もあらわれます。
その変化に対して、適切な処置や修正を加えて、より使いやすい入れ歯に調整していきます。
そして、私が先生とともに、患者さんを拝見していていつも思うのは、
ほとんどの患者さんが、自分が左右どちらで主にかんでいるか、アゴをどういう動かし方で動かしているか、ご存じないことです。
左右バランスよく動かせるのが一番いいのですが、なかなか左右対称に動かせる人はいないです。
ボールを左右同じように投げられる人が少ないように、やはり左右差がある人が多いです。
それでも、自分がどちらでかんでいるのか、もしかしたら片方ばかりでかんでいないかなど、ちょっと意識しながらかんでいただきたいですし、入れ歯を使う場合には、入れ歯は天然の歯ではなく、道具ですので、うまく使いこなすということを意識して使っていただけるといいかと思います。
トレーニングを続けると、逆に入れ歯を使ったことにより、左右対称にかめるようになったり、自分の歯の時よりもいろいろなものがかめるようになったりもされています。
無意識でかめるようになるためにも、特に、使い始めの入れ歯は意識して使われるといいかと思います。
2018/06/24
先日、入れ歯ではなく、歯の治療のことで大学病院へセカンドオピニオンに行かれた患者さんがいらっしゃいました。
大学病院で診察を受けた際に、うちの特殊な金属製の入れ歯をその大学病院の先生が見られて、「これは良い入れ歯をされていますね。」と言われて、そしてはじめて、うちの入れ歯が価値のあるものだと知ったと、話されました。
これはうれしくもあり、反面ちょっと、悲しい気もしました。
もう10年近く通われている患者さんでしたので、逆にちょっと笑えました。
しかしながら患者さんは、歯の治療や入れ歯のクオリティの高さなんて何もわからないのは当然のことで、患者さんに理解してほしいということ自体がそもそもおかしなことであります。
われわれ専門職の者はただただベストを尽くして、入れ歯を製作するのみということです。
家族や親せきなどの入れ歯をこれまで何人も作ってきて、歯のメンテナンスは地元の近所の歯医者さんでケアしてもらっていて、その時も先生方から、「こんな入れ歯見たことない」とか、「これは僕では調整できないね。」などという話を聞くことはありました。
身内なので入れ歯の良し悪しを聞きやすいこともありますし、他の歯医者さんからほめてもらえる入れ歯なので、本音が聞けます。
でも患者さんは、やはり直接先生に本音で話せない部分というのは、どうしてもありますし、本当に良い入れ歯なのかどうかを問いただすこともできないでしょうから、うちの医院ではそのあたりをできるだけこちらから質問するような形にして、技工士の私もスタッフも患者さんの気持ちを察知するように心がけています。
入れ歯自体は他の歯科医院に負けない自信はありますが、最終的に患者さんが満足できているかどうか、不安な部分がないかどうかが一番大切になると思います。