2025/05/19
前回は、製作段階での歯科医師がとったかみ合わせがズレているから、入れ歯が痛むというお話をしました。今回は、入れ歯を作って最初は調子よかったのに、しばらく使っている中で痛み始めた場合に、何が原因で痛んだのかご説明します。
入れ歯を作って2~3週間以内の痛みは、まだ細かいかみ合わせの調整が安定していない時期だと考えられますが、その時期を超えてしばらく使えていたのになんだか痛み始めたというのは、入れ歯の扱いにだんだんと慣れてきて、入れ歯を道具としてうまく使えるようになったことによって、さらに以前よりもかみ癖が強くなってきたという現象です。このような症状はよく見られます。これは入れ歯としてはとてもいいことで、その患者さんが使いこなしてくれた結果現れてきた現象なので、それに合わせて入れ歯を調整していけば、さらによりかみやすく使いやすい入れ歯に変わってくれます。
そして、この時期からさらに時間が経過しますと、かみ癖の部分の人工の歯がすり減ってきたために、全体的なかみ合わせが変化してきたということが起こります。
食べ物は最初は前歯でサクサクと砕いて口の中に入りますが、そのあと奥歯でムシャムシャとすりつぶされていきます。奥歯は右下4本、左下4本、右上4本、左上4本の16本ありますが、大臼歯と呼ばれる一番奥の2本の歯は、やはり大きくて力入りますので、人工の歯のすりへり具合も大きくなります。
患者さんに寄りますが、数年で人工の歯がすりへってしまって、入れ歯の奥歯の高さが低くなってしまう人がいらっしゃいます。メンテンナンスを定期的に受診している人ならば、歯のすり減り具合がわかりますが、長年メンテナンスに行かれていない場合に、奥歯が極端に低くなって、小臼歯や前歯でしかかめていないような入れ歯が実はよく見られます。
こうなりますと、食べ物を食べるときに、入れ歯が前のめりになったような状態になりますので、入れ歯がはずれやすかったり、落ちやすかったりする原因にもつながります。しっかり食べ物もつぶせないので、かむ時間もかかりますし、それからさらに進行すると、入れ歯のどこかが痛み始めることもあります。かみ合わせがズレた状態で無理やりかんでいるのに近い状態ですので、特に下の入れ歯が痛み始めたりします。
また、右でかむ習慣のある人があくまで経験上ですが6~7割いらっしゃいまして、しかも右の奥歯の前の方でかむ、つまり右の小臼歯と呼ばれるところでかむ習慣の多い人がよく見られます。この右でかむ習慣というのは、長年続けてきたことなので、そんなに簡単には修正できないですが、それでも、右だけでしかかまないという習慣をずっと続けていきますと、当然ですが、右の入れ歯の人工の歯のすり減りが大きくなり、これもまた入れ歯が痛む原因につながってきます。
この場合は、右の奥歯の人工の歯のすり減った表面に追加の材料を足して、元のバランスの良い高さまで上げることが大切になってきます。うちの医院では、どれくらいの期間ですり減ったのか?、また、患者さんのかみ合わせそのものの強さを考慮して、4段階くらいの硬さの差がある材料を使って、その患者さんに合った材料を追加して、再び同じ高さに戻して使っていただくようにしています。かみ合わせの強さは十人十色ですので、一人一人に合わせて弱めの材料から使っていただいて、それでもすり減りが大きければ、さらに強めの材料で試してもらうということを繰り返しています。
車のタイヤが走行距離によって数年でタイヤ交換になるように、入れ歯も毎日三度食事をとりますので、経年劣化でどうしてもすり減って行きます。人工の歯自体を交換するのは大変な作業でもありますので、歯のかみ合わせの表面を追加修正します。例えて言いますと、革靴のかかとのヒールがすり減ったので、ヒールを交換するようなイメージです。この作業をきっちり行いますと、ほとんど患者さんがかみやすくなったと言われます。歯もそうですが、入れ歯は定期的にメンテナンスしていかないと、歯や歯ぐきに痛みが出てくるような状態になっていきますので、ひどくなる手前でメンテナンスされるのが一番いいかと思います。
2025/05/09
技工士の関戸です。
もともと自分の歯だったときは、下の前歯が上の前歯よりも外に出ている反対咬合の状態だった人、または、上下の前歯がピッタリそろった切端咬合という状態の人がいらっしゃいますが、その患者さんが特に上の前歯を入れ歯にされた場合には、上の前歯が下よりも外に出て、きれいに下の前歯にかぶさっている、普通の咬合にすることも可能です。
症例によりますが、入れ歯は比較的自由に歯並びを変えることができますので、いわゆる見た目のいい前歯にしやすいほうだと思います。
ブリッジやインプラントになりますと、もともと歯があったところを基点に作らないといけないので、普通の咬合にしようと思えば、どうしてもいびつな形の前歯になります。簡単に言えば、上の前歯がかなり斜めになって前に突き出ているような状態の歯になってしまうのです。
入れ歯には歯ぐきの部分がありますので、全体的に歯を前に出すことができます。斜めにならずに、そのまま下の前歯にうまくかぶるように並べればいいのです。患者さんと鏡を見ながら何度も相談して、いい位置に決まったら、仕上げにかかればいいと思います。
上の前歯の見た目に関しましては、患者さん個人個人で本当に好みがちがってきますので、実際にあれこれ変更しながら、入れ歯でできる範囲内のことを丁寧にやっていけばいいと思います。
少なくともそれまでの反対咬合や切端咬合よりもかなり改善している患者さんがほとんどで、中には口元だけでなく、顔全体のイメージ、あるいは患者さんご本人のお気持ちまでいい方向に変わったと言ってくださる方もいらっしゃいます。入れ歯ひとつで気持ちが前向きになるような結果になったことがスタッフ全員本当にうれしくて、これからも前歯の歯並びの改善は丁寧に行っていきたいと考えます。
2025/05/02
入れ歯専門技工士の関戸です。
前回、入れ歯が合わない、痛い原因①では入れ歯の型どりについて詳しく説明しましたが、今回は、その次に大切な事としまして、上下のかみ合わせについてお話いたします。
それぞれの歯科医師がいろいろな方法でかみ合わせをとられていると思いますが、かぶせ物や詰め物を作るときのかみ合わせと比べまして、入れ歯のかみ合わせはそう簡単には正しくとれないものだと言えます。
どうしてかといいますと、入れ歯の場合は、歯ぐきの上にのせた人工的なかみ合わせの道具を使って、かみ合わせをとるので、歯ぐきは柔らかくて、下に沈み込みます。すると、かっちりとした正確なかみ合わせがどうしてもとれないのです。
部分的な小さな入れ歯の場合には、他の天然の残っている歯でしっかりかみ合わせた位置でとれますが、大きな入れ歯~総入れ歯になりますと、歯ぐきの範囲が広いですから、その歯ぐきの部分は強くかめばかむほど下に沈んでいくのです。そういう意味で確実に正確なかみ合わせというのは、なかなか難しい面があります。
入れ歯が合わない、痛い原因の2つ目として、このかみ合わせが合っていない、合っていないまま入れ歯を仕上げてしまったから、出来上がった入れ歯が痛いということが考えられます。
かみ合わせがズレていますと、ズレて強くかみますから、当然痛みます。歯並びが脱線していると考えてください。下あごは、「あごがはずれる」という言葉もあるように、3次元的にすごく動きます。その下あごの位置を正確にとるというのも、至難の業なのですが、ここをしっかりととらないと入れ歯はうまくいかないです。
そのためには、1回で絶対に正確なかみ合わせがとれると考えないで、一度とったかみ合わせを疑って、その後の歯並びの確認の時に、本当に合っているのかどうか、合ってなければ歯並びの少しの修正で済めばそれでいいですし、大きく異なればかみ合わせのとり直しをすることが大切です。しっかりとったかみ合わせであっても、疑ってかかるくらいでないと、いいかみ合わせはとれないと思います。
ただ、このような何度も確認する作業を、普通の歯科医院でしかも保険診療でやってはもらえないと思います。時間も手間も労力もかかりますので、ぴったり合った入れ歯を求める場合は、やはり自由診療で丁寧に作り込む入れ歯を選ばれた方が、結局は早道だと思います。
当院では院長が入れ歯の型どりも、かみ合わせのチェックも私にまかせてもらえてますので、少しでもおかしい場合にはダメ出しして、とり直してもらっています。そうしないと、患者さんにとって良い入れ歯にならないですし、入れ歯がうまく仕上げられませんので、ここでも私は心を鬼にしっかりと確認しております。これも院長の懐の深さがあってのことなので感謝しておりますが、作り手としてのプライドでもありますので、きっちり仕事させていただいております。
かみ合わせが合わない場合には、通院している歯科医師の先生に、かみ合わせがおかしいとはっきり伝えたほうがいいです。痛いと言うだけでは、入れ歯の歯ぐきの部分ばかり削られていってしまうので、入れ歯を口の中に入れているだけでは何の痛みもない場合には、入れ歯そのものの形は合っていますので、歯ぐきを削る必要は少ないです。かみ合わせた時に痛い場合は、かみ合わせが悪いだけなので、かみ合わせを調整しないと解決しませんから、ぜひそのようにお話しください。
2025/04/15
技工士の関戸です。
特に前歯のブリッジを長年使ってきて、全体的にグラグラしはじめて、もうブリッジにはできないから、入れ歯専門のところで入れ歯を作ってもらいたいと思って来られる患者さんは結構いらっしゃいます。
そういう症例の患者さんの場合、当院ではまずそのままの状態で型だけをとって、入れ歯の土台となる部分を体験してもらいます。その患者さんが入れ歯を使いこなせるかどうか確認してからでないと、いきなりグラグラのブリッジを抜くわけにはいかないからです。
保険診療だとまずブリッジを抜いてハグキが安定してからでないと入れ歯は作れないはずですが、そのハグキが安定する期間は、歯がない状態が続きますので、それでは患者さんは大変困ります。自由診療の良さのひとつでもありますが、そういう患者さんのために臨機応変に入れ歯を作っています。
まず入れ歯を体験して、大丈夫そうだということがわかったうえで、ある日ブリッジをはずすと同時に少し使い慣れた入れ歯に人工の歯を追加するのです。そうすれば、ほとんど問題なく、患者さんも不安がなく、ブリッジから入れ歯への移行ができます。
そして、その時に、ブリッジだった時よりも、入れ歯に変えたほうが見た目がかなり改善した。もっと早く変えてもらったほうがよかったという感想を言われる患者さんは時々いらっしゃいます。
こちらとしましては、前のブリッジに見た目を負けたくないので、一生懸命に試行錯誤して審美的によい歯並びの入れ歯にしようと挑んでいます。残っている歯との関係で難しい時もありますが、これまでの経験と知恵で、その患者にとって今一番いい感じの歯並びであろうと思われるところに、歯を並べていっています。
前歯に関しましては、審美性も大切な要素のひとつですので、他の医院で作られる時にも遠慮せず歯科医師の先生に希望を伝えたほうがいいと思いますし、歯科技工士がいたら、直接希望を伝えてください。何度かやりとりすれば、きっとよい良い歯並びになるかと思います。
2025/02/22
入れ歯専門技工士の関戸です。
他の歯科医院で作った入れ歯が合わない、痛いということで、新しく入れ歯を作ってほしいと、患者さんから電話をいただくことがよくあります。それでなぜ合わないのか?痛いのか? この原因はいくつか考えられますが、まず基本的なことは、歯医者さんに型どりしてもらった型が合っていない、型が良くないということになります。
そして、第一は、歯医者さんの型どりの技術の差が考えられますが、次に考えられますのは、型どりした型の善し悪しをきちんと判断できているか、また、採った型に石膏を流して、石膏の歯型を作るのですが、そのときに入れ歯を作るうえで、本当にきれいに必要なところまできちんと流せているかどうかで、大きな差が生まれてきます。
その際、一番理想的なのは、実際に入れ歯を作る作り手の技工士が型の善し悪しを判断して、良くなければもう一度先生に型を取り直してもらったり、型をとるうえでどこが必要か、なぜ必要なのかを伝えて、最善の型をとるようにすることです。
多くの歯科医院では、歯科技工士が常勤していませんので、歯科衛生士さんや歯科助手さんが先生からもらった型に石膏を流すというのが通例ではないかと思います。でもここで問題なのは、入れ歯の作り手ではない人が、その型で本当にいいかどうかを判断できるものなのか?
また、型に石膏を流すとき、どこがどのように必要で、注意しなければいけないところはどこか?などを深く理解できたうえで取り扱えているのか?疑わしいのです。
すると、その型で作った入れ歯は、やはり理想的なものにはなりにくいと考えられます。自分が実際に作るならば、とても丁寧に必要なところを最善の注意を払いながら扱うはずですし、さらに言いますと、取り扱う材料もすべてきちんと計量して、いつも安定した状態の材料を注意して取り扱いながら、細かい気泡という泡をできるだけ取り込まないように最善の注意を払って型を流していくはずです。
そうして作られてくる物は、入れ歯に限らず、差し歯でもブリッジでも、やはり、一番基本的な要素として、ピッタリ合った入れ歯や差し歯・ブリッジになりやすいと言えます。
もうひとつ問題なのは、歯医者の先生が採った型が良くなかった場合、なかなか取り直してくれと言えない、つまり先生にダメ出しができないという状況が多々あるかと思います。それでは、良い入れ歯や差し歯にならないですから、うちの院長は、型は私の判断を尊重して、良い型でなければ、良い型が採れるまでやり直してもらっています。ここで気をゆるめると、結局は患者さんにとって、良い入れ歯や差し歯にならないわけで、患者さんが損することになりますし、私もいい加減なものは作りたくないので、はっきりと先生に取り直してくださいと伝えています。
欧米では、歯科医師と歯科技工士は対等で、悪い型どりは躊躇なく、返品されます。これでは作れないと言うことで、プロとしての技工士の立場が維持されています。ところが日本では、歯科医師が圧倒的に上位で技工士は完全な下っ端の立場です。その状況の中で、歯科医院に技工士がいたとしても、先生に型の取り直しを遠慮なく言える技工士は甚だ少ないのではないでしょうか?「何とかして作ります」と答える技工士がほとんどだと思います。
そういうわけで、合わない、痛い入れ歯が作られることは、よくあるのではないかと思っています。
この大切な最初の一歩だけでも、もっと改善されたら、日本の入れ歯たちは、もう1段階、良質な入れ歯になってくれるだろうに。でも現実にはこれはかなり難しいと思います。
『作り手の技工士が直接、患者さんの型を確認できて、ダメ出しもOKで、自分で型流しも行える』という、ひと言で言えば、すごく簡単で合理的でもあり、患者さんにとっても最善の入れ歯につながることなのですが、それがなかなかできていないのがほとんどで、とても残念なことではあります。