良い入れ歯をつくるために
入れ歯に関して、痛い、かめない、はずれる、しゃべりにくい、見た目が悪いなど、悩みの多くは共通しています。普通の方法で治る患者さんもたくさんいますが、本当に細かく分析していくと、一人一人解決方法は違うのではないでしょうか。
たとえ同じ歯科医師が同じ理論で入れ歯を作ったとしても、患者さんによって、本当に納得している人、不具合を我慢して納得する人、あきらめる人、不具合に気づかない人、だまって歯科医院を変える人、というように治療の終了時点で実は大きく差が出ています。
ほとんどの歯科医師はこの点に気づいてはいるものの、そこまで深く考えて対処できていないというのが実情ではないかと思います。そのため本当に納得している患者さん以外は、常に入れ歯で悩んでいるというのが本当のところだと思います。
さらに、「医者には本音が言えない。だからと言って近所なので他の歯科医院にも移りにくい。」といった患者さん側にも日本人特有の遠慮があり、いっそう不満をつのらせている人もいると考えられます。こうした現状では、普通よりも難しい入れ歯の患者さんはどこに行ってもなかなか難しいのではないでしょうか。
ところが驚くべきことに、そうした難しい患者さんが歯科医院を転々とし、さらに著名な先生に診てもらって治らなかった症状でも、新人が患者さんの思いを優先して作ってあげたことによって、簡単に解決することも実は少なくありません。入れ歯そのものが原因なのか、気持ちの問題なのか、それを見極めることはとても難しいことですが、入れ歯とはそういうものなのです。
こうした入れ歯治療の難しさを目にすると、良い入れ歯を作るためには、いかに患者さんの『真の本音』を引き出せるか、いかに歯科医師がその本音を正確につかむことができるか、にかかっているのではないかと思うのです。
言い換えると、なごやかに患者さんと話が出来る環境を作り、歯科医師が患者さんの言葉に謙虚に耳を傾けること。この点にかかっていると言えないでしょうか。それは患者さんの言いなりになるということではありません。何を望んでおられるか的確にとらえ、それを技術的に反映することが出来るかどうかを分かりやすく説明することなのです。
そのためには、お互い信頼関係を作ることがまず最優先ではないかと思います。私は、急を要する処置は別として、患者さんの真意が分かるまで治療を必要最小限にして、いきなり大改造するような治療をできるだけしないように(仮に患者さんが望んだとしても)、心がけています。
それは途中で患者さんが治療中止を希望した場合も考えて、できるだけ初診の状態に戻して治療が止められることが望ましいと思うからです。時間がかかるように思われますが、後々のことを考えると、特に難症例に関しては結果として早く終わることになります。
こうした石橋をたたいて渡る治療の積み重ねが、結果的に信頼につながっていると、私なりには分析しております。
入れ歯ガイド