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 すべての人に合う入れ歯とは、どんな入れ歯だろう?
「型どりはこうするべき」
「噛み合わせはこうするべき」
「設計はこうするべき」
そういった類の入れ歯の本は、たくさん世の中に出ています。

 私も著名な先生方の書かれた歯科関係の本や雑誌を数多く読み漁り、セミナーにも出席して勉強してきました。
初めはそれらを参考にして、できるだけ多くの患者さんの共通点を探して、それぞれ決まったパターンに当てはめて入れ歯を作っていました。その後もたくさんの患者さんを見ることが経験となって、さらにさまざまな症状の患者さんにも対応できる入れ歯が作れるようになりました。
 患者さんがいわゆる「経験の多い先生」に信頼を寄せるのは、こういったパターンの豊富さによって「この場合にはこう対処するのがよい」「この人にはこういう入れ歯が適している」という答えがきちんともらえると期待しているからだと思います。
 ところが、これらの方法で作った時、私自身「何かが違う」と感じることがありました。
その時には自分でもなぜそう感じるのか、説明することが難しいですが、私の中で手ごたえが違うというのか、何かしっくりこない、何か足りない感じがあったのです。
勤務医時代の私は、この何かがわかることもなく、
「人間がやることだから、すべてが100%の手ごたえを持てるわけではないのかも・・・」
という程度に考えていました。
開業すると、勤務医時代と違ってすべて私の裁量で治療ができます。
その時、何か違うなと思った患者さんに関しては、私もこだわりを持って治療を継続していくことができました。
そのような中で、「違っていた何か」がだんだんはっきり見えてきました。

 患者さんと長期間のお付き合いがある場合、入れ歯を作ったあと、調整に入った過程で、「この人はこういうタイプの入れ歯ではなく、ひょっとしたら別のタイプの方が良かったのかもしれない」という考えが、患者さんとの会話からふと思い浮かぶことがあります。
患者さんがその時点で入れ歯に満足していても、私自身は納得いかず、「この人は別のタイプが良かったかも」という思いが以後、私の中にずっと残るのでした。
患者さんがその入れ歯で満足しているわけですから、それをあえて「別のタイプでやってみましょう」とはなかなか言いにくいですし、私が下手にそれをすすめると、かえって混乱させてしまう可能性もあり、とはいえ黙っているのも・・・・・なんだかとても申し訳ない気持ちになります。
気になりますので、調整のたびに、こちらから少しずつ提案して入れ歯をその人に合うようにカスタマイズしていくことで、徐々に修正していきました。すると予想通り、結構それが好評です。
「これはいいですね。こんなことができるんですが。楽になりました」このコメントをいただけた時、私も患者さんと同様に喜びを感じます。
今、患者さんが特に問題を感じていない入れ歯をあえて修正するのは、正直に言うと大変勇気がいることです。
しかし、初めに最高の入れ歯を作ることをその患者さんと約束したわけですから、私の中で今のものが最高でないと感じたら、すぐにその約束を果たすように全力を尽くすまでです。

 カスタマイズに積極的に協力してもらえるように、もちろん患者さんには前もって、「もしうまくいかなければ、無料で修正前と同じ状態の入れ歯を作り直しますので、まかせていただけませんか?」とお願いします。すると、たいていの方が快く修正に協力してくださいます。
限界まで挑戦しすぎて、歯科技工士から、「本当にここまでやっていいんですか?!入れ歯が割れても知りませんよ」と言われることもしばしばです。
また患者さんの方から「今度は、ちょっと無理なお願いかもしれませんが、ここをこうして欲しいです。今の状態より悪くなるなら無理には希望しませんが...」と言われると、やってやれないことはないと、思わず果敢にチャレンジしてみることも多いです。
その人の限界は、教科書や専門書には書いてありません。
患者さんの希望に沿ったチャレンジも、やってみると案外うまくいく場合が少なくないことも分かりました。

 入れ歯のカスタマイズに失敗してみて、その限界を知り得たことは数多くあります。
残念ですが、やりすぎて失敗して作り直したこともあります。
しかし、失敗したことで私が損をしたのかというと、その逆です。
一般的に無理だといわれている設計でも、ある程度のところでは大丈夫であるとか、ケースによってはうまくいく場合があることがわかるのです。
失敗から知り得たことが、次の患者さんの入れ歯作りにいかされると思えば、再製にかかった費用も安い授業料です。
 また、この失敗により、患者さんと信頼関係が壊れたこともありません。
むしろ、限界を知っていただくことで、いかにぎりぎりの設計に挑戦しているか理解いただけるようで、ぐっと距離が縮まるのです。同じ失敗を二度繰り返すと、高い授業料になるばかりでなく、患者さんからの信頼も失いますので、できるだけそれはないようにきちんと記録して、患者さんの原因を追究するようにしています。
そして、限界に挑戦する入れ歯作りで、3つのことが新たにわかりました。

それは
 ①万人に合う入れ歯作りは、万人に失敗しないための入れ歯作りであって、決してその人の限界の入れ歯ではない。
 ②人それぞれに合った限界の入れ歯を1回で完成させることは、相当難しい。
 ③ダメだと言われていることでも、やってみると結構うまくいく。
ということです。

 つまり万人に合う入れ歯を探すより、その人だけにあった入れ歯を探す方が、その人好みの、良い入れ歯が作れるということです。
今までは、「こういうやり方で作ればうまくいく、という方法があるのではないか」「どこかに理想の入れ歯作りというものがあるのではないか」と、相求めていたのですが、まさにその逆の発想でした。
ダメかもしれないことでもいろいろやってみて、手探りで探していくことが最も近道であり、いわば急がば回れの方法が最も確実であることがわかりました。今までなぜ気が付かなかったのだろうと思うのですが、この逆の発想で作る入れ歯こそ、患者さんにとって最も納得のいく治療法だと思います。
万人に合う入れ歯は、本当は万人にも可もなく不可もない入れ歯なのかもしれません。
 大勢の患者さんに支持される入れ歯というものは、もちろんある傾向を持っていますが、だからと言って、あなたがそれに当てはまるかどうかはやってみないとわからないでしょう。
1万人がうまくいっても、1万人と1人目がうまくいくことを保証するものではないということです。
私がこれまでの先入観を断ち切ることができたのは、私のこだわりの治療に協力していただいたすべての患者さんのおかげだと思います。
 その結果、私自身が「他の人はこれでうまくいっているのにおかしいな」ということを考えないようになりました。

 とにかく、入れ歯は一人ひとり違うものであるということを常に意識してためしてみるようにしています。
みなさんも他人の入れ歯と自分の入れ歯を比べるのではなく、自分の入れ歯の修正前と修正後を比べてください。
それにより、私と患者さんの間でしか作れない、限界の入れ歯を極めていくことができます。


 
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「入れ歯治療の新発想」


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